冬の旅 W

プラハの感触がやっと掴めた三人で夕暮れ散歩。ヴアーツラフ広場を下がって旧市街へ行くとクリスマス・マーケット。憧れのマーケットはあと数日で終りのようだけど、雰囲気を味わうことができました。大通りから小路に入ると魅力的なお店が・・。素朴なクラフトショップで愛きょうのある子どものニットに合いそうなハンガーを求めることが出来たのです。
18時丁度、旧市庁舎前の広場に人が集まっています。天文時計や、からくり時計を見るひとたちです。鐘が鳴り、聖人たちがドアを開けてまわり、金色のにわとりが鳴いて終了。言い伝えによれば15世紀に制作されたとき、その見事さに妬みさえ抱かれて、二度と同じものが創れぬよう作者とされる天文学者は何者かに目をつぶされたと言われています。また、時計塔の近くの敷石に27の十字架が描かれていて、17世紀のハプスブルグ家との戦いで敗れたチエコの指導者たちが処刑され、その首が置かれた場所とのこと。歴史の残影が取り巻く旧市庁舎にのぼり、夜景を眺めます。

pention muzeumのモーニング・カフェは表通りに面していて小じんまりとした空間。窓にはクリスマスの名残り。天使の羽根がモビールのように何本も吊るされて洒落た間仕切りです。朝食をとりながら今日一日のスケジュールの打ち合わせ。
O先生は早起きで、ずっと先生時代の習慣が消えずに朝から学習。おかげで私たちはガイド付きのツーリスト。連泊はこの旅ではじめて、ゆっくり出発です。ペンションの目の前に国立博物館。大きく積年の煤で黒く威厳のあるもの。そこからパリでいえばシャンゼリゼ、ヴアーツラフ広場がたらたらと旧市街までつづきます。地下鉄の駅への入り口が無数にあって、これでは迷います。とにかくブルタヴァ河にかかるカレル橋を目指してGO!
チェコの地下鉄、それは東欧の諸国に共通している深いもの。吐き出されるようにスピードのあるエスカレーターで下ります。A線の二つ目で下車。地上に出るとブルタヴァ河。そして向こう岸の丘の上に王宮。美しい姿にみとれます。ハンガリー・ブタペストの王宮もドナウ河に掛るカレル橋の左向こうに聳える似たようなロケーションだけどちょっといかつく、プラハ城は右手の上にあって鳥が羽を広げた姿で優雅なもの。
「プラハは百塔の街といわれている、橋のたもとの橋塔にのぼりますか?」学習充分のO先生にそう言われては登らぬわけにはいきません。高いところが嫌いではないし・・。ぐるぐるとだいぶ登ったところで大柄な番人。オレンジと黄色のボヘミヤカラーの戦闘服をまとった番人さんから「チケットは下で」と日本語でいわれてしまい、山男の先生が「合点!」と折り返して買いに。その間二人は見上げるような番人さんと記念撮影。こののんびりさは冬だからでしょう。入場券を買うために並ぶ人もいなくて(だから売り場を見ずにスルー)、行列せずにてっぺんに上がれました。朝もやのかかる絶景。まだ雪をすこしのせたままの赤いレンガ屋根、そして大小さまざまな尖塔が360度のぐるりに見えます。これから歩くプラハの街の距離感もつかめました。いざカレル橋を渡って王宮へ。12時の衛兵交代セレモニーを観なくては。

2011・1・4  プラハ

橋の欄干両側に30の聖人像。フランシスコ・ザビエル像は親近感がありますね。おまじないのように誰もがさわって黒光りしている像も。520mのゴシック橋を渡りきり、マラー・ストラナ地区に入ります。丸い石畳の坂道の両側は商店やレストランがぎっしり。とにかく12時までに山頂へ。交代式の行われる王宮正門を探していると、ザッザッザッと靴音。30人ほどの近衛兵たちが隊列を組んで出勤してくるところです。角で待つ上官が何か声を掛けると、澄まし顔の凛々しい若者からふっと笑顔がこぼれたり、緊張をほぐす空気が流れていい感じ。さすがに冬服は毛皮の襟付き、毛皮の帽子。角の建物に入ったのを見届けて先回り。すでに正門前はひとだかり。あらゆる国からやってきたツーリストたち。12時、先ほどの隊列が行進してきて王宮広場に整列。儀式にのっとり粛々とセレモニーが執り行われ、広場を囲む宮殿の二階にある三っつの窓から楽隊がトランペットでフアンファーレを奏でます。絵のようなひとときが終了し、交代した隊員たちがザッザッザッと石畳の道を帰って行きます。ツーリストたちは登城道とよばれる坂道を下ったり、四方へ解散。
私たちは旧王宮の見学に。14世紀のカレル4世の時代に出来たというお城の内部は、長い歴史を秘めたまま冬のやわらかい陽ざしにまどろむかのようでした。
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ヴィート大聖堂は圧巻です。この二本の巨大な尖塔が河岸からの眺望を引き締めていたのです。若き建築家パルレーシュが創ったstヴァーツラフの礼拝堂は荘厳。石作りの小さな天使もあちこちで遊んでいます。19世紀から20世紀にできたステンドグラスのひとつにミュシャのものがあり、見たことのない独特の世界で美しい。プラハの歴史ある建造物や、登城坂のテラスからプラハの街の情景に見とれ、ランチの時間も大幅に過ぎました。
表通りを避けて、誘われるように入ったレストランは薄暗く、ろうそくの明かりだけ。スープとパンの簡易ランチで満足。お城の北にある黄金小路(錬金術師たちが住んでいたという長屋)へ行くというO先生と分かれて、ホソカワと私は裏通りを散策。チェコの陶器店をのぞいたり小もの屋に入ったり、市電に乗って地下鉄の駅のあるところで降り、乗り換えてミュゼウム駅に戻り、すこし遠回りしてペンシヨンに戻ろうと横町を曲がると、手芸店。裏地や布が積まれ、まだ洋裁をする国なのですね。ボタンもあり使えそうなものをたくさん買うと、お店のひとが嬉しそう。裏通りはその国の素顔が見えます。部屋でくつろぎ、夕方にロビーでの待ち合わせまでゆっくりすごします。硬い感じの建物の裏側は全てに庭があり、午後の陽が西向きの部屋に届いています。

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橋塔からの
旧市街

カレル橋

旧市街の裏道

城下町の家並み

ボヘミアの紋章

なんと美しい光景でしょう。王宮はライトアップされ、うす緑の光につつまれています。多くの人から「プラハはきれい}と言われてきた意味がわかります。プラハと京都が姉妹都市であるがために今回の旅が実現しました。狭い塔上の回廊を地球のあちこちからやって来たツーリストたちと譲り合いながらプラハの夜景を眺め、平面の地図からは読み取れない地形や色、暮らしが息づく街の雰囲気に浸れて幸せでした。            つづく

王宮の衛兵交代

世紀末の画家 
ミュシャのステンドグラス

天使の像のシルエット

ブルタヴァ河の向こうの丘に
プラハ城

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