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8月末、訃報が届きます。あの野呂英作氏が8月14日にご逝去されたとのこと。ええっとまたもや絶句。ここ数年ご体調のことは伺っていましたが、一宮へ伺うのを、すっかりごぶさたしていたことが悔やまれます。
もう50年ちかくも前のこと、大津にある毛糸屋さんで、不思議な風合いと色合いのカセになった糸を手にします。見たことのない糸には黒字で丸いタグが付いていて、漢字で「野呂英作」と書いてあります。裏をみると愛知県一宮市・・・と住所と電話番号も記載。さっそく電話をしてみます。「〇〇という糸を求めたのですが、他にも糸を作ってらっしゃいますか?」と尋ねると、「いっぱいありますよ、見にいらっしゃい!」とのこと。
それが社長の野呂英作氏ご自身だと判明したのは、初めて伺わせていただいたときです。まだあたりは田園風景の中にプレハブ小屋のような社屋があり、お邪魔すると奥の机に置かれた色とりどりのウールの山は色が爆発している!と思いました。独特の糸は従来のカセにして色づけする段染め手法と異なり、染めた糸玉をつなぎながら撚っていく画期的なものでした。色と色の間のまざった部分が微妙な雰囲気を作り、数えきれないほどの色数となって出来上がるのです。とりこにならずにはいられません。
京都で初めて個展を催した折、作品はともかく糸も分けてほしいと言われたのが、ショップを持つきっかけとなりました。「一宮」通いは重ねていましたが、あるとき「お店を持ちたいのですが、糸を卸していただけますか?」と、恐る恐るうかがいます。すると「いいですよ」とひと言の快諾。それでアンジュが誕生するのです。ずーっと恩人と思っていました。野呂さんの糸が無ければ「アンジュ」は存在していなかったでしょう。ショップからアカデミーへと移行してもアトリエには糸棚があり、私は365日、他の糸と共に、野呂さんの糸を眺めつづけているというわけです。
この間、NOROの糸はアメリカを拠点に世界中に市場を拡大し、ヨーロッパを旅していると、旧市街の毛糸屋さんで見かけることも多く、世界のNOROヤーンとなっています。唯一無二だからこその実績でしょう。「何処にもない糸を創る」と、初志を貫徹された野呂英作氏を称えます。
同社は現在、銀行マンから転職されたご子息が跡を継ぎ、私が伺ったころからのスタッフもまだいらして、皆さんが支え合って初代の偉大な業績をさらに発展させているところです。

今年は三宅一生さん・森英恵さんと著名なデザイナーの方々も他界されました。A氏の国葬もありましたが、私にとって大切な方々とのお別れに、心が折れながら深く深く哀悼の意を捧げています。

asako 2022・10・4

この夏は喪失感を味わうという格別なものがありました。6月中旬、「今病院なの、ちょっと具合が悪くて診てもらったら即入院、でも入院はそう長くないみたい」と言われたので、お見舞いに家に帰ってからすぐ食べられるものを届けました。もちろんコロナ禍で対面できず、詰所までのことでした。それから10日後「明日退院、なんだか手だてがもうないみたい」。現実感のない他人ごとのような電話に、しばらく療養されるのだと思っていたら、6月29日早朝、ご主人から「今朝亡くなりました」と言われて絶句。すぐ駆けつけましたが、もう何も言葉は交わせませんでした。末期のすい臓がんだったと知り、ご本人も思いもよらぬことにちがいありません。

Oさんとは長いお付き合いでした。アンジュがまだ移転新築前のテニスコートに近いショップ時代です。東京から奈良へ転居されていて、京都の大学に通う一人息子さんの「洗濯ものを届けに来たの」と、ついでに立ち寄ってくれたのが始まりです。東京で都立高校の社会科教師を務めるかたわら、趣味で編みものをされていました。私の本を見て、山科まで訪ねてくれたようです。ご主人も数学の教師で職場結婚。お二人とも早期退職をされて、ご親族とのご縁があって関西に住まうことになったのです。
たび重ねて洗濯ものの運搬話を聞きながら、通わないで京都に住んでは?と問うと、「そうね京都もいいわね」、それも山科に越してくるというのです。懇意にしている工務店を介して、とんとんと話がまとまり、清水焼団地ちかくの東山の山裾に新居を建てられ、親子三人で楽し気に暮らし始められました。
富山県出身、東京の大学に通われたOさんとは6歳の歳の差がありましたが、後年「妹になってよ」といわれるくらい、気の合うお付き合いを重ねてきました。お互い若きころの東京話や、山科に越されて間もなく、アトリエの作品を編んでくれるニッターさんとしても活躍してくれて、私にとって無くてはならぬ存在でした。ときおり思い出しては、もう居ないとカラッポの心に言い聞かせなくてはなりません。

哀悼

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     野呂さんへのお供え花   カードを添えて・・・

寄せ植えはクランベリー・センニンソウ・ハツユキソウ・メキシカンハーブ
              奈良・KICCOR
Iさんに依頼

いよいよ今月末に広島での展示会が始まります。
制作したDMは思った以上にご好評をいただき、
懐かしい方々からのお便りやメールを嬉しく受け取って
いるところです。
名古屋のY さんは、お便りに添えてお庭のカラスウリや
スズメウリを蔓ごと送ってくださいました。
実だけを切りとってガラス器に盛ってみましたら、アンジュに
秋がやって来ました。

先日、植木屋さんに手入れをしていただき、伸びすぎた
トネリコや幹が太くなったネムの木など大物をバッサリ。
高齢者の庭らしくさっぱりとしました。と言ってもまだまだ
手のかかる植栽に振り回されることでしょう。
ようやく秋らしくなって来ました。季節の変わり目です。
どうぞご自愛ください。

楽しく美しい「野呂英作」の毛糸たち