わが心のキエフ

          
『石井麻子 わが心のタペストリー』より
2015年11月 かもがわ出版刊 ¥1.800(+税)
京都との姉妹都市9枚を含め2003年から2015年までに
制作したタペストリー27作とそれぞれに寄せるエッセイ集
「3・11を想う」タペストリーも昨年までに10作を創り、
そのうちの5作も掲載しています。

2022年2月24日、ロシアが隣国ウクライナへと進軍しました。
2014年のクリミア併合以来、南東のドンバス地方では事実上の
ロシア支配地域であったそうです。どちらが先に仕掛けたかを問う
こともできますが、いかなる理由でも戦争はあってはならないものです。

ウクライナの国旗、ブルーと黄色の花たち 
ブルーは空、黄色は小麦畑をあらわしている。

毛糸のリボンも二色です

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私は2011年9月に、京都市との姉妹都市提携40周年記念式典参加のためウクライナの首都であり美しい古都でもあるキエフに出かけました。30周年を迎えるクロアチアのザグレブでの式典にも参加し、ザグレブはユーゴスラビアの内戦が勃発する前年に旅していたので二回目。ウクライナは初めての訪問となりました。当時は独立広場近くの大通りにロシア派と反ロシア派の陣営がテントを張ってそれぞれの旗をなびかせ、アジ演説の応酬をしているのが多少の緊張を感じさせましたが、ロシアのルーツといわれる美しい街に心奪われ、ねぎ坊主のような丸い屋根が特徴のロシア正教の寺院やチェルノブイリ原発の記念ミュージアムなどを巡り、広大な敷地にあらたに造られた「京都庭園」での植樹祭にも参加したのです。一緒にスコップを持った少年は、今どうしているのでしょう。式典のあと、お母さんと連れだって小さなお土産を渡してくれました。それからずっとアトリエには、その想い出が置かれています。

オペラハウスで行われた記念式典ではロビーに、『京都』と『キエフ』のタペストリーが飾られ、訪れた市民の方々からスパシーバ(素晴らしい)と声を掛けられました。前年に制作したタペストリーは、まずロシア語を学ぶところから始め、写真集や資料を見ながら、学んだ言葉とのコラボレーションを試み、完成したタペストリーを携えて訪れた街に感動しないはずはありません。しかし2022年の今、連日TVに映し出されるキエフや各地の変わり果てた光景を見るのはつらいです。いかなる理由があっても戦争はしてはいけないことです。ライフラインが絶たれ、武器が大量投入されて喜ぶのは石油やガスの価格を釣りあげられる人たちと、武器商人のみです。私は京都と姉妹都市提携を結ぶ美しい世界の古都である9都市を編み上げながら、世界中が姉妹都市であれば良いのに、と強く思っていました。一日も早く戦い合うことをやめ、ひとりでも犠牲者を増やさぬように、そして離れ離れを余儀なくされている家族が再び会える日が来ることを祈るばかりです。

3月7日 京都市市役所前の広場に設置された献花台
キエフから寄贈されたモニュメント前の花束。
私はタペストリー「キエフ」のクリアファイルに二色の
リボンを添えて置かせていただきました。

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2月27・28日と小豆島へ行って来ました。そのことを書こうと思っていましたが、ウクライナのことを思うと
旅のあれこれは、いつかまたの機会にさせていただくことにいたします。瀬戸内の穏やかな海とオリーブの畑、
ミモザも咲き始めた好天の二日間でした。海しか見えない静かなお宿『海音真里』さんでの極上のひとときは
小豆島を旅する方にお薦めです。必ずご紹介させていただくことをお約束いたします。

コロナの収束は見えてきたのでしょうか。世界史に残る波乱の日々が、一日も早く幕を閉じられますように。
明日は3・11、今回のウクライナ戦で無念の思いで命を落とされた方々とともに深く哀悼の意を捧げます。

2022・3・10 asako